生きもの調査をすると、何が変わるの?
イトミミズやユスリカが環境保全型の田んぼの指標生物
ここ数年の調査の積み重ねにより、イトミミズやユスリカが田んぼの生物層や生態系を大きく広く支えていることが分かってきました。イトミミズやユスリカの数や、その繁殖時期などが、田んぼ環境や稲作りに影響することから、この二つが「指標生物」であることが、ほぼ認められています。
田んぼでいちばんの働きもの
成虫もツバメなどの格好のエサとなるいのちの視点でものを考えられるようになりました。
メダカのがっこうは2002年から、田んぼの生きもの調査をはじめました。当初の目的は、日本の自然環境を守ってくれている農家が、国民から評価されて、その働きに対して国から環境直接支払いが受けられるように、その数量化の目安となる生きもの(指標生物)の種類や数を調査・研究することでした。
ところが、農家や消費者と一緒に田んぼの生きもの調査を行っていくうちに、当初は予想していなかった、私たち自身の意識の変化を体験するようになってきました。田んぼの生きものたちに注目していくことで、今まで経済効率優先で判断してきた私たちの心に、深く柔らかく命の視点でものを見る意識が浸透するようになったのです。
まず、絶滅危惧種はトキやメダカだけではなく、むしろ本当に危惧しなければならないのは、環境を守っている農家が存続の危機にさらされていることなのだ、ということに気づきました。「ありがとう田んぼ」をつくってくれている「花まる農家」を支援する「田んぼ組」の誕生へとつながっていくこの気づきは、田んぼの生きもの調査を始めたおかげでもたらされたのです。(くわしくは「田んぼ組をはじめました」をご覧ください。)
また、生きもの調査を始めて、自然は人間が守るというおこがましいものではないことを実感させられました。生きものたちの働きを知れば知るほど、今まで生きものたちのために我慢するのが環境保全型農業だと思ってきたのですが、生きものの働きを活かしさえすれば、もっといい農業ができるのだ、という人間の技術の可能性を信じられるようになりました。(くわしくは「田んぼのレシピ」をご覧ください。)
農家が元気になり、新しい農法が見え、消費者も賢くなる!
警鐘を鳴らすための調査ではなく、小さな生きものから稲、農家、消費者まで「すべての命が、本当に元気に生きられる方向に」社会の向きを変える、そのために命の声に耳を傾けよう、という姿勢で調査をすると、たくさんのいいことが生まれてきます。その効用を4つ挙げてみましょう。
花まる農家の伊藤さんは
田んぼの名カメラマン
耕さない冬・水・田んぼにして田んぼの生きものたちに目覚めて以来、伊藤さんは名カメラマンになってしまいました。毎日田んぼにいるからこそ撮れる名ショットは、メダカのがっこう機関誌の表紙を飾ることもあります。
朝露に光る田んぼ一面のクモの巣
新雪の上にキジが胴体着陸したところ。雪の朝のドラマ!- 1 農家のみなさんが田んぼを楽しむようになります
- 今まで稲の生長しか目に入っていなかった農家が、メダカやドジョウたちが増えたか楽しみに田んぼへ行くようになりました。トンボの羽化に感動し手を休めて夫婦で会話したり、カエルを蹴飛ばして歩いていた農家が、どんなカエルがいるのか、卵を見分けるようになったり、みんなが「今まで楽しいと思ったことがなかった農業が楽しくなった」と言います。
- 2 生きものの働きを活用する稲作へと移行できます
- イトミミズの抑草効果や肥料効果のわけが良く理解できると、その繁殖条件を整えることで、その働きや繁殖時期をコントロールすることで肥料や除草剤に頼らなくて済む新しい農業技術が分かってきます。また、クモやカエルの働きを十分引き出せば、農薬を使わない農業ができるようになります。
- 3 安心できる作物を見分ける目を育てます
- 生きもの調査に参加する消費者は、生きものがたくさん育つ田んぼこそが、いのちあるお米を育てるのだ、ということを実感するので、食べ物を何で選ぶのかという基準をもてるようになります。また自分だけが安全な食糧を求めるのではなく、地球の生きもの全体の生きる環境に思いをはせる消費者も、生きもの調査に参加することで増えています。
- 4 花まる農家と田んぼ組とがお互いに心を通わせることができます
- 花まる農家を支える田んぼ組のメンバーになっていただいたみなさんには「お米を買う」だけでなく、「生きもの調査と田の草取り」イベントにもご参加いただけるよう、お願いしています。ともに田の生きものたちを観察し、農家の指導のもとで田の草取りの苦労を分かち合うという共通の体験が、お互いの信頼の強い絆を築きます。この絆こそが、何よりも農家のみなさんを支えるのです。
草取りの指導をする花まる農家の水口さんと、草取りに参加した田んぼ組メンバー。お米をつくる人と食べる人の間に「顔の見える信頼関係」があってはじめて、お米づくりは支えられる。子どもたちに伝えたいのは、いのちを基準にものを考えられる「感性」
「田んぼはいのちいっぱいの場所なんだ!」という原体験を育てたいのです。子どもたちの田んぼ体験の一環で行う生きもの調査で、ぜひ伝えたいと思うものが1つあります。それは、センス、感性です。たくさんの生きものたちが命を全うしている田んぼに入り、小さな生きものたちに目の焦点を合わせることで、命の田んぼを体験する。すると、稲以外の生きものが全くいない日本のほとんどの田んぼに入ったとき、生きものたちがいないことを変だと思う感性を培ってもらいたいと思っています。
レイチェル・カーソンは「沈黙の春」というすばらしい本を書きましたが、ある春、DDTの農地への大量投与で、鳥たちの声が聞こえなくなったことを、「おかしい、ヘンだ」と思う感性を彼女が持っていたからこそ、「沈黙の春」が生まれたのです。今の日本人は、自分たちの食べているお米が、「沈黙の田んぼ」で生産されていることを「ヘンだ」と思わない人間になってしまっています。その感性を子どもたちから取り戻したいと思って田んぼ体験のサポートをしています。(くわしくは「田んぼ体験をしませんか?」「学校田・研修田の勧め」をご覧ください)
メダカのがっこうが目的とするのは、本当に賢い国民を育て、民間の力で環境支払いのシステムを作り、
「食べる人がつくる人を直接支える」という究極の農家支援をすることです。それが国の環境支払い制度の構築にもいい影響を及ぼせたらいいな、と思っています。
- ▶ 生きもの調査とは?
- ▶ 生きもの調査をすると、何が変わるの?
- ▶ 田んぼの生きもの図鑑

